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遺産分割協議のQ&A
Q1)夫が亡くなりました。相続人は妻である私と息子ですが、息子はまだ12歳の未成年者です。この場合、母親である私が子供の代理人として遺産分割協議を行えばよいのでしょうか?
A1)法律上、婚姻経験のない20歳未満の者(未成年者)は、その行為能力が制限されているため、法定代理人の同意を得ずに勝手に契約などの法律行為を行ったとしても、取り消されてしまうことがあります。
遺産分割協議も法律行為のひとつであり、未成年者本人が協議書に自ら署名押印をしたとしても、それだけでは不十分です。
未成年者の場合は、通常、両親(一方が亡くなっている場合は生存している方の親)が法定代理人として、遺産分割協議はもちろん、子供の生活全般における法律行為や財産管理を行うことになりますが、遺産分割協議の場面において、親も相続人である場合、利益が相反するとして、親は子を代理することはできません。
これは、形式的に子と代理人である親の利益が相反しることから、このような親の代理権を認めてしまうと、親が子の取り分を全部取ってしまう等、不公平な遺産分割協議がされてしまう恐れがあるためです。
よって、あなたのお子さんが未成年者であり、かつ、あなたも共同相続人の1人である以上は、母親であるあなた以外の代理人を立てる必要があります。
そこで、親権者であるあなたは、子の住所地の家庭裁判所に子の特別代理人を選任してもらい、その特別代理人と遺産分割協議を行う必要があります。
※ 家庭裁判所による特別代理人を選任せずに行った遺産分割審判手続きを無効とした判例(東京高決 昭和58.3.23)があります。
特別代理人を選任してもらう際には、申立書に候補者記入欄がありますので、相続人にとって利害関係のない方(叔父・叔母、弁護士・司法書士など)を候補者として記入しておくと良いでしょう。
Q2)夫が交通事故で亡くなりましたが、現在、私は2人目の子を身ごもっています。胎児は相続人になりえるのでしょうか?また、もし仮に胎児にも相続人としての資格があるならば、遺産分割はどのようにしたらよいのでしょうか?
A2)相続における胎児の扱いについては、法律上、次のような規定があります。
【民法 第886条】
①胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
②前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは適用しない。
あなたのお子さんはまだ生まれてきてはいませんが、身ごもっているお子さんについても、相続人としての権利があるのは確かです。さて、問題は、遺産分割の方法です。
もし仮に、胎児が生まれてくることを前提に、先に遺産分割協議を行ったとした場合、実は1人ではなく双子(三つ子)だった、あるいは流産してしまった等の問題が発生したときに各共同相続人の相続分が変わってきてしまうため、協議のやり直しなど面倒なことになります。
胎児の遺産分割については、学説が分かれており、①胎児が生まれてくるまでは遺産分割協議はできないとする説、②遺産分割協議は行えるが、生きて生まれてきた場合には、事後、価額による支払いをすればよいとする説がありますが、先に述べた理由からいっても、胎児が生まれてくるまでは、遺産分割協議は待っておいた方が無難であると考えます。
Q3)所在が分からない相続人がいるため、遺産分割協議を行うことができません。こういった場合は、どうすればいいのでしょうか?
A3)家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立て、この財産管理人が家庭裁判所の許可を得て、不在者に代わって遺産分割協議に参加することで、遺産を分割することができます。
また、不在者の行方不明の状態が長期間続いている場合は、失踪宣告を申し立て、その相続人が既に死亡しているものとして協議を進める方法もあります。
Q4)父の遺産の分割協議を終えたあとに、父の子と名乗る人物が現れました。戸籍を調べてみると、確かに、父が認知した子でした。分割協議は一からやり直さなければなりませんか?
A4)相続人を一人でも欠いた遺産分割協議は「無効」ですので、やはり遺産分割協議はやり直さなければなりません。
なお、被相続人(当該事例では父)の“死亡後”に、認知の訴えや遺言により認知され、新たに相続人となるケースもあります。
この場合、既に遺産分割協議が終わっていたとすれば、相続分に応じた価額を支払えばよいことになっています。
Q5)相続人に未成年者がいます。どのように遺産分割協議をすればよいでしょうか?
A5)未成年者自らが遺産分割協議をしても初めから無効だったり取消しの対象となったりします
そして、親も同じ相続人である場合には、親は未成年者を代理することはできません(民法第826条)。
つまり、親が、その子とともに遺産分割の協議に参加する場合には、民法第826条(利益相反行為)の規定により特別代理人の選任を要します。
また、同じ者の親権に服する未成年者が2人以上いる場合には、それぞれ特別代理人の選任が必要です。それぞれの子の利益が相反するからです。
特別代理人は、子の住所地の家庭裁判所にその選任を申し立てます。申立てに必要な書類は下記のとおりです。
・申立書1通
・申立人(親権者)、子の戸籍謄本各1通
・特別代理人候補者の住民票の写し又は戸籍附票
・利益相反行為に関する書面(遺産分割協議書の案)
申立てに必要な費用
・子1人につき収入印紙800円
・連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ確認してください。)
※事案によっては、このほかの資料の提出が必要な場合もあります。
Q6)私は実印を持っていません。遺産分割協議書は認印でもいいですか?
A6)印鑑登録がされていないいわゆる認印は、法務局や銀行等の手続きの際に認められません。遺産分割協議書に押印をする印鑑をお住まいの市区町村役場で登録してください。登録できる印鑑・できない印鑑が決められていますので、詳しくは市区町村役場にお問い合わせください。
Q7)海外に住んでいる相続人がいて、日本で印鑑登録ができません。どうしたらよいでしょうか?
A7)実印の代わりにサインをします。
そして、相続人が住んでいる国の日本大使館、日本領事館等で、『このサインは本人のものに間違いがない』という証明をもらいます。
なお、国によってはその国の公証人の公証で足りる場合がありますが、まずは大使館等にお問い合わせ下さい。
Q8)遺産分割協議書は相続人の人数分作らなければいけませんか?
A8)特に決まりはありません。1通しか作らないこともあります。
ただ、遺産分割協議書を持って複数の銀行等の手続きをするときに、1通の協議書を使いまわすのは効率が悪い場合がありますので、複数作られることをお勧めします。
Q9)不動産と借金は長男が相続するという遺産分割協議は可能でしょうか?
A9)そのような遺産分割協議も可能ですが、借金については注意が必要です。
たとえ『すべての借金は長男が相続する』と遺産分割協議書に記載しても、債権者にそのことを主張することができません。
債権者は、法定相続分の割合で、各相続人に返済を求める権利を持っています。
なお、長男以外が債権者に返済した場合、返済をした相続人は、その返済した金額を長男に請求することができます。
Q10)兄弟3人で父の遺産を相続する事となりましたが、長男である私が自宅の土地・建物を受け継ぎ、銀行預金3000万円を二男、三男で1500万円ずつ分ける事で合意をしておりますが、その場合、特に遺産分割協議書を作成する必要はありませんか?
A10)遺産分割協議書は法律で強制されているものではなく、必ず作成しなければならないわけではありません。
しかし、後日の紛争を避けるためにも、協議の内容を明確にし、書面に残した方がよいでしょう。また、不動産や預貯金の名義変更手続を行う際には、遺産分割協議書の提出が必要となります。
例えば遺産分割協議によって不動産を相続した場合、不動産の名義変更をするには、法務局に遺産分割協議書を提出する必要があります。
Q11)父が亡くなり、遺言書が出てきましたが、兄弟で話し合った結果、遺言書に書かれた内容と違った遺産分割をする事に全員で合意したのですが、問題はないでしょうか?
A11)遺言があっても、相続人全員の合意があれば、遺言と異なる遺産分割協議は可能です。 ただし、遺言による相続人以外への遺贈があれば、受遺者の同意も必要です。
Q12)亡くなった父の遺産(土地、現金)について、姉と二人でその分割方法を決めたのですが、しばらくして、別の銀行口座に預金(800万円)がある事が判明いたしました。遺産分割協議はやり直しとなるのでしょうか?
A12)新たに発見された預金につき、遺産分割協議をやり直す必要があります。現金預金については、従前、法律上当然に法定相続分に従って分割されるとなっていましたが、平成28年に最高裁判例が変更され、現金預金も遺産分割の対象となるとされました。また、実務上、銀行からお金を引き出す際には、銀行から遺産分割協議書の提出を求められることも多いです。
なお、遺産の全貌が明らかでない場合は、遺産分割協議書に『協議後存在が判明した相続財産は○○が相続する』などという文言を入れることで、改めて遺産分割協議を行う必要がなくなります。
Q13)相続人3名で父の遺産分割協議を行いましたが、後になって父の遺言書が見つかりました。分割協議を行った内容と遺言書に書かれていた内容が若干違うのですが、相続人3名とも既に分割協議を行った内容で問題ないと言っているのですが、どうしたら良いでしょうか?
A13)遺言は最大限に尊重されるものであり、また法定相続分に優先しますので、協議した内容と異なる遺言が出てきた場合は遺産分割協議が無効になります。しかし、相続人や受遺者が遺言の内容を確認の上、やり直しをしないことに同意すれば、遺言の内容と異なる遺産分割協議を行ったものとして、あらためて遺産分割協議をやり直す必要はありません。
Q14)父が亡くなり兄弟で遺産分割協議書を作成し相続手続きを行ったのですが、数か月後に父が認知した愛人の子が現れました。この場合どうしたらよいでしょうか?
A14)認知されていない愛人の子は相続人とはなりませんが、認知されている場合は相続人となります。その場合の相続分は、平成25年9月5日以降の相続(平成13年7月1日から平成25年9月4日までの相続については、遺産分割協議等が終了していないものも含みます)については、実子と同等のものとなります。
この場合、既に終了している遺産分割協議は相続人1名を欠くことになり無効となりますので、改めて全員での遺産分割協議をやり直すか、それが不可能であれば家庭裁判所で調停または審判を受ける必要があります。